カルロス・クライバー(Carlos Kleiber 1930~2004年)は、ドイツ出身の20世紀のクラシック音楽界で最も有名な指揮者の一人です。
モーツァルト、ベートーヴェン、ワーグナーの作品を情熱的かつ強烈に、そしてユニークに解釈したことで広く記憶されています。
ナチスからの迫害を受けながらも世界的な指揮者として自身の地位を確立していった生涯を送りました。
並外れた音楽解釈と指揮の強さ、完璧主義で厳格な基準、そして多数のコンサートや録音に出演することを望まないことで知られており、レコーディングが少なくライブ音源を聴衆が勝手に録音した海賊版が多く出回るといった逸話を持っている指揮者でもあります。
完璧主義者で、自分自身と音楽家たちに非常に厳しい要求をすることでも知られていましたが、クラシック音楽の歴史の中で最も美しく、感情を揺さぶる演奏の遺産を残しています。
カルロス・クライバーの生涯
カルロス・クライバーは、1930年に当時著名なオーストリア人指揮者として知られたエーリッヒ・クライバーとユダヤ系アメリカ人の母のもと、ベルリンで生まれました。
5歳になるころには父がナチスと対立しアルゼンチンのブエノスアイレスへ移住し、ここで出生時の名前であるカール・ルートヴィヒ・ボニファシウス・クライバーからカルロス・クライバーへ改名します。
初等教育はイギリス人の家庭教師によってその後の教育はイギリスへ留学して寄宿学校で学び、進学のための学習と共にピアノとティンパニの作曲や演奏といった音楽教育も受けています。
ただ、父は息子カルロスの音楽への道に否定的であり、22歳になるころにはスイスはチューリッヒの連邦工科大学で化学を学びことになります。
それでもカルロス・クライバーは音楽への想いが捨てきれず、同年のうちにミュンヘンのゲルトナープラッツ劇場で無給練習指揮者になります。
この様子を見て父はついに息子の希望に沿った進路を助けるようになり、24歳となった1954年には父の援助も手伝ってポツダムの劇場でオペレッタガスパローネで指揮デビューを果たしました。
その後の父は厳しい批判者としてカルロス・クライバーを育てていくことになりますが、その教育に応えるように、1964年から1966年までチューリッヒやシュトゥットガルトなどの歌劇場で第1指揮者として活躍しました。
そして1966年にはエジンバラ音楽祭でアルバン・ベルクの「ヴォイツェック」を上演し、イギリス音楽界でもデビューを果たします。
そしてミュンヘンのバイエルン国立歌劇場で指揮者となり、その名声を高めることに成功します。
さらに国境を越えて1973年にはウィーン国立歌劇場、1974年ロンドンのロイヤル・オペラ、同年バイロイト音楽祭でもデビューを果たし、ヨーロッパで成功を収めた後、渡米して1977年にサンフランシスコ交響楽団を指揮し、さらに1978年にはシカゴ交響楽団の指揮者としても活躍していきます。
これらの演奏は批評家から絶賛され、音楽の感動を引き出す能力で有名になりました。
多くの名誉あるポジションを与えられていたにもかかわらずクライバーは非常に選り好みをし、毎年数回しかコンサートを指揮しませんでした。一貫してフリーランスとしての立場で指揮を続け常任指揮者となることはなく、実際に皇帝カラヤンの後任としてベルリンフィルの音楽監督のオファーも断っています。
1980年代には指揮の回数を減らし、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなど世界の著名なオーケストラ以外では指揮をしなくなりました。
それでも、その知名度と実力から指揮の話題が出るだけで大ニュースとなったようです。
そして1990年代にはコンサート活動から引退し、プライベートコンサートやチャリティコンサート以外の活動をしなくなり、徐々に活動の機会を減らしていく中、2004年に妻の故郷出会ったスロヴェニアにて死去しています。
指揮やレコーディングの回数は著名な指揮者の中でも極端に少なかったものの、その質の高さから世界有数の指揮者の一人にも数えられ、ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートにも度々登場しています。
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カルロス・クライバー!華麗なる天才指揮者の魅力を解説!人気投票歴代ナンバー1指揮者の実力とは?
音楽家、車田和寿氏によるカルロス・クライバーの解説動画です。
カルロス・クライバーについてより深く、詳しい説明を穏やかで分かりやすい解説で紹介しています。
カルロス・クライバーの名盤・名演
・ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》・第7番
1枚目は1982年5月3日、ミュンヘン、国立劇場でライブ録音されたものです。
これまでのカルロス・クライバーのスタイルを一気に変化させた演奏会として知られており、最初からオーケストラを煽るようなしぐさで力強い指揮をふるっています。
カルロス・クライバー最大の魅力である生命力あふれる指揮がいかんなく発揮された録音であり、管楽器が跳ねるような演奏を感じさせるディスクといえるでしょう。
ウィーン・フィルとのベートーヴェンの交響曲第5番、第7番は、世界的にも評価の高い指揮とされています。
・ブラームス:交響曲第4番
2枚目は1980年3月、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏によるウィーンでのレコーディングによるブラームス:交響曲4番です。
クライバーの数少ないセッション録音であり、希少なディスクになっています。
ブラームス自身が「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と自画自賛する一曲にカルロス・クライバーが挑戦したものであり、イタリアオペラのような演奏と評価されています。
ディテールへの徹底したこだわりを感じさせる指揮が展開されている一枚です。
・C.クライバー/魔弾の射手
最後は1973年に収録されたカルロス・クライバーのドイツ・グラモフォン(世界でもっとも長い歴史を持つクラシック音楽のレコードレーベル)デビューのディスクです。
多くのカルロス・クライバーファンから人気のある一枚であり、当時東ドイツであったドレスデン、ルカ教会でのセッションになります。
収録曲の魔弾の射手の一連の楽曲を収めたものであり、同曲における最高の指揮の一つと評価されています。
録音年が古いため、やや音質が悪いものの、カルロス・クライバーの魅力を知るのに十分な一枚といえるでしょう。
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カルロス・クライバーの動画
ベートーヴェン:交響曲第7番(全曲)/コンセルトヘボウ管弦楽団
ベートーヴェンの交響曲第7番は、1812年に作曲された4楽章の作品です。ベートーヴェンの最も人気のある作品の一つとされ、エネルギッシュでスリリングな性格を持つことで有名です。
カルロス・クライバーとコンセルトヘボウ管弦楽団による演奏は、この傑作の最も伝説的な録音の一つとして多くの人達に認識されており、その解釈は素晴らしいドラマと興奮に彩られ、オーケストラは驚くべき正確さとコントロールで演奏されています。
特にアレグレット楽章は独特の暖かさと美しさで表現され、この演奏のハイライトとなっています。
クライバーとオーケストラはプレスト&フィナーレをスリリングに演奏し、交響曲を力強く締めくくります。
この録音はクラシック音楽ファンにとって必聴のものであり、ベートーヴェンとクライバーの天才さを示す重要な記録として後世に残ることでしょう。
動画◇カルロス・クライバーのベートーヴェン第7番『決定打はどれ?』Carlos Kleiber【ATM音楽解説 Vol.16】解説:徳岡直樹 Naoki Tokuoka
ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調/コンセルトヘボウ管弦楽団
ベートーヴェンの交響曲第4番変ロ長調は、ロマンティックな壮大さと旋律美に満ちた作品です。カルロス・クライバーとコンセルトヘボウ管弦楽団によるこの演奏は1983年にアムステルダムのコンセルトヘボウで録音されました。
ベートーヴェンの古典的な作品に対するクライバーの解釈は、タイトで規律正しいコントロールと音楽への情熱的な取り組みが特徴です。
叙情的であると同時に劇的であり、オーケストラはクライバーの微妙なニュアンスに反応しながら、交響曲の中で見事に導いており、明るく豊かな音で美しくニュアンスのあるダイナミクスの使い方でバランスをとっています。
全体として、このベートーヴェンの交響曲第4番の演奏はクライバーとオーケストラの技量と芸術性を証明するものです。
ウェーバー:魔弾の射手 序曲 1970
1970年にカルロス・クライバーが指揮したウェーバーの「魔弾の射手」序曲は、クラシック・レパートリーの中でも傑作と言われています。
クライバーは厳格で厳密な解釈で知られており、それ以前にも他の作品を指揮していましたが、この演奏は間違いなく彼の最も象徴的な演奏の一つです。
19世紀ドイツの人気オペラ「デア・フライシュッツ」の精神を取り入れた、生き生きとしたエネルギッシュな作品です。特にクライバーの演奏は作品のドラマチックな激しさを引き出しながら、まるで遊びのような軽快な雰囲気を保っている点が特筆されますが、このような解釈によってこの曲はさらに楽しくエキサイティングなものになっています。
クライバーはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と協力して、めったに聴くことのできないドライブ感と激しさを特徴とする演奏を作り上げ、銃で撃たれた弾丸のような大胆で情熱的なエネルギーでこの曲を指揮し、それゆえ「魔弾の射手」というニックネームが付けられたとも言われています。
序曲は豊かな弦楽器、力強い金管楽器、スリリングな木管楽器で構成され、スリリングで力強い音楽が展開されます。クライバーの演奏はこの作品の史上最高の演奏の一つとして挙げられることが多い作品です。
ブラームス:交響曲第4番
ブラームスの交響曲第4番は、1885年にカルロス・クライバーの指揮で演奏されました。
この交響曲は作曲家の最も重要な作品の一つであり、「偉大な交響曲」とも呼ばれており、シンプルで情熱的な主題に基づく3つの楽章からなる4部構成の協奏交響曲です。
第1楽章はアレグロ、第2楽章はアダージョ、そして第3楽章は生き生きとしたエネルギッシュな序奏を持つフィナーレとなっています。
カルロス・クライバーは、ブラームスをはじめ、ベートーヴェン、シューベルト、ワーグナーなどの作曲家の音楽を世代を超えて生き生きと聴かせる世界的な指揮者でありました。
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
ベートーヴェンの交響曲第5番はクラシック音楽の歴史上、最も愛されている作品のひとつであり、彼の代表作のひとつでもあります。
この曲をカルロス・クライバーが指揮すると、さらに特別で力強い意味を持つようになります。
クライバーの解釈は情熱的で感情的であり、彼はこの作品に比類ないレベルのエネルギーと激しさをもたらしています。彼は、他の指揮者ではほとんどできない方法で作品のドラマと緊張感を引き出すことができ、彼の解釈は多くの人が史上最高のものの1つとみなしています。
クライバーが指揮するこの交響曲を聴くことは確かに忘れがたい体験であり、この演奏が史上最も有名で評価の高い演奏のひとつとされているのも不思議ではありません。
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