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ブルックナ―の名曲・代表曲

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ヨーゼフ・アントン・ブルックナー

ヨーゼフ・アントン・ブルックナー

ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(Joseph Anton Bruckner 1824年9月4日 ~ 1896年10月11日)、オーストリアのリンツ近郊のアンスフェルデンで出生したブルックナーは12人兄弟の長男として比較的裕福な家庭で育ちました。

幼い頃から音楽に親しみ、父親の影響でオルガンとヴァイオリンの才能を開花させます。音楽の勉強に励み、特にバッハベートーヴェンの作品に触れることでその音楽的素養を更に深めていきます。しかし父の死後、27歳で聖フロリアン修道院の聖歌隊員に入ります。

修道院のオルガニストに就任後、リンツ大聖堂の専属オルガニストとしても活躍し、オーストリアやドイツで高い評価を得ますが経済的な理由から教師の道を選び、教育と同時に音楽の勉強を続けることになります。

ブルックナーはジーモン・ゼヒターから作曲の指導を受け、和声法や対位法などの音楽理論を学びながらも、リヒャルト・ワーグナーの作品に心酔し、彼の音楽様式の研究も行いました。これらの学びが彼の作曲活動に大きな影響を与えました。

1867年、ゼヒターの死去を受けてウィーン国立音楽院の教授に抜擢されたブルックナーは、オルガニストとしてだけでなく、作曲家としても活動を始めます。彼の代表曲には交響曲第1番から第9番までの作品があり、特に『交響曲第7番』の成功は、ブルックナーの作曲家としての地位を確立しました。

ブルックナーは生涯を通じて作曲の技術を磨き続け、1876年の第1回バイロイト音楽祭への出席は、彼にとって大きな転機となりました。ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』に衝撃を受け、自身の作品を大幅に見直す決意をします。

晩年には作曲家としての成功を享受し、1880年代には作曲活動に専念できる環境が整いました。
『交響曲第7番』の成功を皮切りに『交響曲第8番』、『交響曲第9番』といった作品を生み出し、72歳で亡くなるまで作曲を続けました。

ブルックナーの音楽はその深い宗教性と複雑な構造、独特の和声感で知られ、今日でも多くの人々に愛され続けています。彼の作品は、後世の作曲家にも大きな影響を与え、音楽史における重要な存在となっています。

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ブルックナー 名曲の背景

ブルックナーの音楽旅路を辿るにはオーバーエステライヒ州やウィーンの彼の足跡を訪れることが欠かせません。また、レナーテ・グラースベルガーが編纂した「ブルックナー作品目録」(WAB)は、彼の作品を体系的に理解するための重要な手引きとなります。ブルックナーの名曲はただ聴くだけでなく、その背景や作曲の動機を知ることで、より深い理解を得る事ができます。

彼の生涯は厳格な宗教的背景のもとで音楽に打ち込む日々でした。
ブルックナーは独自の音楽スタイルで知られ、その代表曲には、交響曲第7番、第8番、第9番があり、これらの作品は彼の深い宗教観と革新的な和声法、壮大なオーケストレーションが特徴で特に交響曲第7番は、リヒャルト・ワーグナーへの追悼の意を込めた楽章を含むことで知られています。

ブルックナーの音楽人生は少年期のリンツでの教育から始まり、ウィーンでの成熟期に至るまで彼の代表曲に深い影響を与えました。幼少期に教会音楽に触れ、オルガン演奏の才能を開花させた彼は後にウィーンで学び、作曲技術を磨きました。この時期、彼はベートーヴェンワーグナーの作品に触れ、独自の音楽スタイルを確立。彼の名曲には厳かなオルガンの響きと壮大な交響曲が含まれており、これらはブルックナーがウィーンで過ごした時期の経験が色濃く反映されています。

ブルックナーは音楽のみならず深い宗教的信念を持ち続け、それが彼の作品にも顕著に表れています。ウィーン時代は彼の音楽キャリアにおいて、技術的な成熟とスタイルの確立が見られる重要な時期でした。

ブルックナーとブラームスの複雑な関係性

ブルックナーとブラームスの関係はクラシック音楽界において興味深いテーマの一つです。
ブラームスとブルックナーは同時代を生きた作曲家として互いに影響を受けつつもその音楽性は大きく異なりました。ブルックナーの音楽は度々その革新性と宗教的な深みで評価される一方で、ブラームスは古典的な形式美と情緒的な表現で高く評価されています。

この二人の巨匠の間には相違点が多いものの、彼らの作品は今日でも多くの人々に愛され、クラシック音楽のレパートリーとして高い評価を得ています。ブルックナーの生涯と彼の音楽がブラームスとどのように関わり合っているのかを掘り下げることは、クラシック音楽の理解を深める上で非常に価値があると考えられます。

アントン・ブルックナーとヨハネス・ブラームスは19世紀末の音楽界において、異なる音楽的理念を持っており、ブルックナーは深い宗教性と壮大なオーケストラ作品で知られ、一方ブラームスは古典的な形式を重んじる作曲家でした。

二人の関係は複雑で直接的な競争関係にあったわけではありませんが、当時の音楽界の対立軸を象徴する存在でした。ブルックナーがブラームスの音楽を尊敬していた一方でブラームス周辺の人々はブルックナーの作品を批判的に見ることが多かったのです。

ブルックナー 宗教性と壮大なスケール

ブルックナーの交響曲はその壮大なスケールと深い宗教性で知られています。
彼の音楽的特徴として自然への畏敬の念や宗教的な情熱を感じ、聴く者に深い感動を与えるとともに独自の調性感を持つことで他の作曲家と一線を画しています。

特に交響曲第8番は名指揮者チェリビダッケが「交響曲の頂点」と表現したとも言われ、「宇宙の深淵」を感じるとも言われるその壮大な世界感は交響曲愛好家から愛されており、世界中のオーケストラによって演奏されています。

著名な指揮者たちもブルックナーの交響曲に挑戦しており、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のカラヤンやウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のブーレーズなど、その演奏は多くの音楽愛好家に感銘を与えてきました。

また、その大規模な管弦楽編成と独特の書法によっても特徴づけられます。
彼の交響曲は通常、巨大なオーケストラを要求し、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器が豊かに使用されます。特にブルックナーは金管楽器の響きを好み、その深みと力強さを交響曲において効果的に活用しました。

彼の作品における書法は厳格な対位法と和声の原則に基づきつつ、長大な発展部やクライマックスへの構築が見られます。これらの特徴はブルックナーの音楽が持つ壮大さと瞑想的な深さを生み出しています。

ブルックナー作品の版問題

ブルックナーの作品には複数の版が存在し、これが「ブルックナー作品の版問題」として知られています

ブルックナー自身が生前、作品を何度も改訂したこと、出版社や友人たちが彼の意向を超えて改訂を加えたことが原因です。特に彼の交響曲は複数の版が存在し、どの版が最もブルックナーの真意を反映しているかについては今もなお研究者や指揮者の間で議論が続いています。この問題は演奏会や録音でどの版を選択するかに大きな影響を及ぼし、ブルックナーの解釈を深める上で重要な課題となっています。

ブルックナーの交響曲出版における版問題は音楽史において注目されました。
最初の公式出版は1878年、交響曲第3番の第2稿に基づいて行われましたが、1880年代半ばまで他の交響曲の出版は進みませんでした。出版された譜面には、ブルックナーの弟子たちが介入し、管弦楽の編成変更や楽章の短縮などが行われた事例が見られます。

アントン・ブルックナーの交響曲全集には、ハース版とノヴァーク版の二つの主要な版が存在します。

ハース版は1931年にローベルト・ハースにより編集され、ブルックナーの原典稿を基にしています。
一方、ノヴァーク版は、ハース版の後、レオポルド・ノヴァークによって編集されたもので、より広範な資料を基に校訂されました。

これらの版はブルックナーの意図に忠実な演奏を目指す上で重要な役割を果たしていますが、編集の過程で異なる解釈が生じ、演奏家や聴衆によって好みが分かれることもあります。

ブルックナーは自身の原稿をウィーン宮廷図書館に遺贈し、これが後の「ハース版」全集出版の基礎となりました。この全集は初版群に見られる問題点の解決を目指しましたが、一方で「原典稿」という概念に固執した側面も指摘されています。


ブルックナーはウィーン音楽院で教鞭をとり、多くの生徒に影響を与えました。
彼の教えは厳格な対位法と和声学に基づいており、その中で生徒たちは音楽の深い理解と創造的な表現を学びました。
特に、グスタフ・マーラーやヒューゴ・ヴォルフなど、後に著名な作曲家となる人物もブルックナーの下で学んでいます。彼らはブルックナーの音楽的理念と技術を受け継ぎ、自らの作品に生かすことで、音楽界に新たな息吹をもたらしました。

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ブルックナーの名曲・代表曲

ブルックナー イメージ画像
画像はイメージです。
交響曲                交響曲第0番 ニ短調
交響曲第1番 ハ短調
交響曲第2番 ハ短調
交響曲第3番 ニ短調 「ワーグナー交響曲」      
交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」
交響曲第5番 変ロ長調
交響曲第6番 イ長調
交響曲第7番 ホ長調
交響曲第8番 ハ短調
交響曲第9番 ニ短調
室内楽曲弦楽五重奏曲 ヘ長調
合唱曲テ・デウム ハ長調

名曲1 交響曲第3番 ニ短調 「ワーグナー交響曲」

交響曲第3番「ワーグナー交響曲」とは、アントン・ブルックナーがリヒャルト・ワーグナーへの敬愛を込めて作曲した作品です。

ブルックナーは1873年にワーグナーに会い、この交響曲を献呈することを申し出たところ、ワーグナーはこの献呈を喜び、ブルックナーの作品を高く評価したと言います。
この出来事はブルックナーにとって大きな自信となり、後の作曲活動に大きな影響を与えました。

この交響曲はブルックナーの独特な作曲技法が随所に見られます。
ソナタ形式を用い和声法や対位法の高度な技術を駆使しており、ブルックナー特有のリズムやユニゾン、休止の効果的な使用が特徴的です。


第1楽章はゆっくりとしたテンポと神秘的な雰囲気の中で展開されます。
この楽章はニ短調で、2/2拍子のソナタ形式を採用しており、独特な音楽的空間を創出しています。
冒頭ではトランペットが開始旋律を奏で、これが作品全体の象徴となっています。

呈示部では互いに異なる曲想を持つ第1主題、第2主題、そして第3主題が登場します。
それぞれの主題は形式や構成の上で独自の頂点を築き上げ、その結果、楽章全体としては長大な構造を持つことになります。具体的には初版で746小節、改訂第3版でも651小節に及ぶ長さです。

第1主題はトランペットによる開始旋律から始まり、やがて荘厳なフォルテッシモへと発展します。
第2主題は軽やかで優雅な響きを持ち、一方、第3主題は金管楽器の力強い音色が特徴で緊張感を演出しています。展開部では管弦楽団の繊細な対話を経て、壮大なクライマックスへと導かれます。

この楽章の序奏と結尾はベートーヴェン第9交響曲からの影響が見られますが、トランペットが冒頭から活躍する点において新しい試みがなされています。全体を通してこの楽章はニ短調の神秘的な雰囲気の中で多様な音楽的アイデアが展開される、深みのある作品となっています。


第2楽章は変ホ長調で4/4拍子の三部形式を採用しています。
この楽章はブルックナーの交響曲の中でも特に核心をなす部分と言えるでしょう。アダージョで始まり、情熱と法悦に満ちた音楽が展開されます。

楽章の開始部ではヴァイオリンが穏やかな冒頭主題を奏で、リスナーをゆったりとした音楽の流れへと誘います。この部分は徐々に熱気と情感を増していき、聴く者の心を引きつけます。

中間部へと進む、ヴィオラが神秘的な雰囲気を醸し出す第1主題を演奏し、この主題は木管楽器と低弦楽器によって引き継がれます。さらに、古いクリスマスの歌を思わせる第2主題が現れ、楽章の神秘性と広がりを一層深めます。この部分では、第1主題が再び登場し、金管楽器が加わることで、コラール風の響きを生み出し、楽章の頂点へと導かれます。

冒頭主題が戻ってくると弦楽器の動きが活発になり、金管楽器の音色も大胆に変化します。しかし、休止の後には総括的なクライマックスが形成され、最終的には心地よい静寂が訪れ、楽章を締めくくります。

この楽章では「第2稿」においてワーグナーの諸作品からの引用などが削除され、内容が大幅に変更されました。それによりブルックナー独自の情熱と神秘性がより際立った作品となっています。


第3楽章はニ短調で3/4拍子を採用しており、三部形式で構成されています。
この楽章は「かなり急速に」という指示のもと、スケルツォとして展開されます。特に目を引くのは、ヴァイオリンの疾走する旋律とフォルテッシモで提示される主要主題です。
金管楽器から放たれる稲妻のような壮烈な響きが聴く者の心を捉えます。この迫力ある部分は軽快な舞曲風の楽句を挟みながら2度繰り返され、聴き手を魅了します。

中間部ではレントラー(南ドイツの民族舞踊)の要素を含んだ舞曲が導入され、その素朴さと明るさで一時的に穏やかな雰囲気を醸し出します。この部分は故郷を思わせるような香りが漂い、心地よい安らぎを提供します。しかし、この平和は長くは続かず、再びヴァイオリンによる旋回するメロディが楽章を支配し、初めの緊張感ある雰囲気に戻ります。

この楽章全体を通して管楽器の力強さや舞曲の趣が際立っています。
ブルックナー特有の執拗に反復される楽想や、ワーグナーを彷彿とさせる金管の下降進行がこの楽章の特徴を際立たせています。簡潔ながらも根源的な力に満ちたリズムが聴く者に深い印象を残します。


第4楽章は息をのむような展開で聴き手を魅了します。
この楽章はソナタ形式を採用しており、2/2拍子のリズムの中で繰り広げられる音楽はまさにドラマティックな世界を創り出しています。第1主題は「ワルキューレ」第3幕の怒れるヴォータンを連想させるほどの迫力を持ち、聴き手を即座にその世界へと引き込みます。

この楽章では第1主題の後に全く異なる雰囲気を持つ第2主題が現れ、ホルンとトロンボーンによるコラール風の旋律と弦楽器が奏でるポルカ風のリズムが特徴的です。
この第2主題は舞曲のような軽快さを持ちつつも、次第に切迫感を帯びた第3主題へと移行します。
第3主題は劇的な緊張感を高め、楽章全体のドラマを一層引き立てます。

展開部では炎のように情熱的な第1主題が再び登場し、その後、第2主題の再現が予感されつつも再現部へと進みます。ここで第2主題が明確に再現され、やがて第3主題が第1主題と絡み合いながら圧倒的なクライマックスを築き上げます。そして、コーダでは第1楽章の第1主題が壮大に奏でられ、全曲の終結を飾る華やかなフィナーレを迎えます。

この第4楽章は各主題の回帰と結合によって壮大な頂点を築き、最終的には圧倒的な迫力で全曲を締めくくります。聴き手はこの音楽の旅を通じて、ワーグナーの世界観を存分に味わうことができるでしょう。


演奏会ではこの交響曲の第1稿と第3稿がよく取り上げられますが、ワーグナーが認めたのは第1稿です。第1稿はワーグナー的な要素が強く、第3稿ではそれらが削除されているため、ワーグナーへの献呈を考えると第1稿が「ワーグナー交響曲」と呼ぶにふさわしいと言えます。しかし、第3稿には独自の完成度と引き締まった構成があり、ブルックナーの成熟した作曲技術が感じられます。

この交響曲はブルックナーの孤高の存在を示す作品であり、その音楽の本質を追求した結果です。
ワーグナーへの敬愛と独自の音楽理論・作曲様式の融合が見事に表現されています。ブルックナーの交響曲第3番は彼の音楽的遺産の中でも特に重要な位置を占めており、今日でも多くの人々に愛され続けています。

Anton Bruckner: Sinfonie Nr. 3 mit Günter Wand (1992) | NDR Elbphilharmonie Orchester

名曲2 交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

アントン・ブルックナーの「交響曲第4番 ロマンティック」はその創作過程で大きな変遷を遂げた作品です。

1874年に第1稿が完成したものの、その初演は期待外れに終わり、ブルックナーは作品の大幅な改訂を決意します。1878年から1880年にかけて彼はこの交響曲を根本から見直し、特に第3楽章を完全に作り変えるという大胆な改訂を行いました。この改訂版は1881年2月20日にハンス・リヒター指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演され、この時には成功を収めることができました。

ブルックナーはその後もさらに手を加え、1880年には第4楽章を大きく改訂し、最終的には1881年にウィーンで、そして1886年には遠く離れたニューヨークでの初演を見ることになります。
これらの改訂を経て「交響曲第4番」はブルックナーの代表曲の一つとして今日でも多くのオーケストラによって演奏され続けています。特に1878/80年に行われた改訂版はハース版やノヴァーク版第2稿として知られ、最も広く演奏されている版となっています。

この交響曲が「ロマンティック」と呼ばれる所以はその音楽が持つ壮大な自然描写や中世の騎士の世界を想起させるロマンティックな情緒にあります。第1稿の初演が失敗に終わった後も諦めずに改訂を重ねたことでブルックナーの名曲の一つとなりました。


第1楽章はまるで朝の始まりを告げるかのような雰囲気で幕を開けます。
静寂を破る弦楽器のトレモロ(単一の高さの音を連続して小刻みに演奏する技法、ならびに複数の高さの音を交互に小刻みに演奏する技法)が夜が明け、新たな一日が始まる瞬間を彷彿とさせるのです。この独特の開始方法はブルックナーが得意とした手法であり、彼の音楽の象徴的な一面を形成しています。

特に印象的なのはホルンのソロパートです。
これは新しい朝の到来を告げるかのような役割を果たし、聴く者に清新な気持ちをもたらします。
ホルンの響きはこの楽章全体を通じて中心的な役割を担い、聴く者の心を捉えます。
その美しいメロディーはブルックナーの音楽が時として複雑であると言われる中でも明確な旋律線を描き出しています。

また、ブルックナー特有のリズム「ブルックナーリズム」と呼ばれる2+3のリズムがこの楽章にも登場します。これは元々5連符で記述されていましたが演奏のしやすさを考慮して2つに分けられたとされています。このリズムはこの楽章に独特な動きをもたらし、聴く者を音楽の旅へと誘います。

この楽章を聴いていると、まるで山頂に立ち、広大な景色を眺めるような感覚に陥ります。
自然の壮大さ、そしてそれを超える何か大きな存在を感じ取ることができるのです。それは宗教的なものである必要はありませんが人間を超越した何か圧倒的な存在の感覚を呼び覚ます音楽です。

第1楽章はブルックナーの音楽世界への入口とも言える作品です。
その開始から終結まで聴く者を自然と人間の精神性を巡る旅へと誘います。この楽章を通じて私たちは音楽が持つ力、美しさ、そして無限の可能性を再認識するのです。


第2楽章はアンダンテ・クワジ・アレグレットで、緩徐楽章で聴く者を深い森の散策に誘います。
ブルックナーがこの楽章について「深い森」と表現したように苔むした岩や蒼々とした木々の間を縫うように柔らかな陽光が差し込むシーンが思い浮かびます。この楽章ではチェロが短調の主題を奏で、まるで森の深淵へと誘うかのような雰囲気を醸し出しています。

ブルックナーはこの楽章に「歌、祈り」という言葉を添えており、その音楽からはあたたかく親密な空気を感じ取ることができます。ヴィオラの活躍も特徴的でその音色は時に木漏れ日のように聴く者の心を照らします。しかし、この楽章がただ穏やかなだけでないことは途中で訪れる大爆発のようなクライマックスが示しています。このドラマティックな展開は金管楽器の使い方によってワーグナーを彷彿とさせる雰囲気を生み出しています。

初めてこの楽章を聴く人にとってはその長さが試練となるかもしれません。しかし、繰り返し耳にすることでその深みと美しさが徐々に明らかになり、ブルックナーの音楽の真髄に触れることができるでしょう。この楽章は静かな散歩から始まり、時には激しい感情の爆発を経て再び穏やかな終わりを迎える一つの大きな物語のようです。


第3楽章はまるで中世の狩猟シーンを彷彿とさせるスケルツォです。
ブルックナーはこの楽章を通して馬が駆け抜ける様子や狩人が獲物を追い求める姿を音楽で描写しており、特に森の中を響き渡るホルンの音色はこの楽章の魅力を一層引き立てています。

ブルックナーがこの曲を「ロマンティック」と名付けたのは単に人間の感情を表現したかったわけではなく、中世ロマネスクへの憧れや自然への賛美、そして神への感謝の気持ちを音楽を通して伝えることにあったと言われています。第3楽章はそのようなブルックナーの思いが込められた、まさに「ロマンティック」な楽章と言えます。

改訂を経てこの楽章はより明るく、親しみやすい雰囲気へと変化を遂げました。
ブルックナーが手紙で述べたように、中世の騎士が白馬に乗り、湖畔を駆け巡る姿は聴く者に古き良きドイツのイメージを思い起こさせます。この楽章を聴けば、ブルックナーがなぜこの交響曲に「ロマンティック」という副題を付けたのか、その理由が明確になるでしょう。


第4楽章はただのフィナーレではなく、人間の理解を超えた神聖なる力を感じさせる壮大な終結を迎えます。演奏時間が1時間を超えるこの交響曲は最終的には神々しい光によって幕を閉じられるのです。

この楽章においてアントン・ブルックナーは彼独自の「ブルックナー・ユニゾン」の技法を駆使しています。この技法が初めて導入されたわけではありませんが第4番におけるその使用は非常に典型的で、その完成度は高く評価されています。楽章の構造はソナタ形式を採用しており、そのダイナミックな展開は聴く者を引き込みます。

特に注目すべきは冒頭部分に登場する主題です。
この主題は第1楽章と第3楽章のリズムを巧みに取り入れており、その再現はまさに聴きどころの一つです。この楽章全体を通して聴き手は天国への階段を一歩一歩上るような壮大な旅を経験します。
そして、最終的には天上の世界に到達したかのような感覚に包まれるのです。

初稿ではこのクライマックスが怒涛の勢いで展開されますが、第2稿での処理はさらに洗練されています。この楽章の終わりにかけての展開は聴く者にとって忘れがたい印象を残すことでしょう。
ブルックナーの第4番「ロマンティック」第4楽章はその名の通りロマンティックな情緒に満ちた、感動的なフィナーレを迎えるのです。

Bruckner: Symphony No.4 "Romantic" Kubelik/ Wiener Ph. ブルックナー:交響曲 第4番「ロマンティック」クーベリック ウィーンフィル

名曲3 交響曲第5番 変ロ長調

アントン・ブルックナーの交響曲第5番は彼の作品群の中でも特別な位置を占めています。
この作品はブルックナーの音楽的特徴が存分に発揮されたファンからも高い人気を誇る名曲です。
特に版や稿に関する問題が他の作品ほど顕著でないため、ブルックナーの音楽的意図が忠実に反映されていると言えるでしょう。

ブルックナーは1875年にウィーンへ移り住んだ直後、交響曲第5番の作曲に着手し、1878年に完成させました。しかし、この作品が生前に演奏されたのは1894年の一度きりでブルックナー自身はその演奏を聴くことはありませんでした。当時、演奏されたのは弟子のフランツ・シャルクによる大幅な改訂が加えられた版でブルックナーが亡くなる直前のことでした。

この交響曲はブルックナーが直接手を加えたことのない、完成後に改訂や異稿問題に悩まされることのなかった珍しい例です。そのためブルックナーの「本来の音楽」をより純粋な形で楽しむことができる作品と言えます。しかし、初演時に使用された「シャルク改訂版」はオーケストレーションの大幅な変更や終楽章のカットなど、原典からの大きな変更が施されていました。
この改訂版によって約40年間知られていた交響曲第5番の「原典版」が、1935年にハースによる校訂を経て明らかにされました。

ブルックナーの交響曲第5番はその複雑な歴史にも関わらず、ブルックナーの音楽的美学を体現した作品として今日も多くの人々に愛され続けています。この作品を通じてブルックナーの独特な音楽世界を深く理解することができるでしょう。


第1楽章の序奏部はアダージョ― アレグロです。
低弦のピッツィカートによる穏やかな導入からこの楽章は始まります。突然、オーケストラ全体が力強い響きで応答し、その豪華な音楽が初めのテーマまで続く様子は聴く者を圧倒します。

その直後、ヴィオラとチェロが美しく、そして静かに第1主題を奏で始めるのです。
この静謐な雰囲気の上で小気味悪さのある響きを持つ第2主題がヴァイオリンによって演奏され、その後は木管楽器が流れるような旋律の第3主題を紡ぎ出します。ブルックナーの作品では度々3つの主題が用いられることが特徴であり、この第1楽章でもそれらの主題が変化し続ける様子が見て取れます。

展開部はホルンとフルートによる対話で幕を開けます。
この部分は特に木管楽器の下降する旋律の中でヴァイオリンが動きを見せる部分が美しく、聴き手を魅了します。この楽章全体を通じて、静と動の対比、そして複雑に絡み合う旋律の展開がブルックナーの音楽の深さと豊かさを感じさせてくれます。


第2楽章はその繊細で感動的な旋律で聴き手を魅了します。
この楽章はオーボエによって始まるもの悲しいメロディで幕を開け、すぐに木管楽器がこれに加わり、独特の浮遊感を生み出します。この部分の特徴は弦楽器がピッツィカートで伴奏し、メロディが4拍子で進行する一方で伴奏は6拍子という変則的なリズムを持っていることです。

第2楽章における第1主題と第2主題の対比はこの楽章のドラマを形成する重要な要素です。
第1主題の悲しみを帯びたメロディに続き、第2主題では、弦楽器のみが使用され、「力強く、はっきりと」提示されることで明るく、しかし少し切ない雰囲気を作り出しています。

楽章が進むにつれてこれらの主題は変化し、絡み合いながら展開していきます。
大きなクライマックスを迎えた後、再び木管楽器が登場し、主題の変容を聴かせてくれます。
そして、ティンパニのトレモロがこの楽章の終わりを告げ、静かながらも深い余韻を残します。


第3楽章はそのスケルツォ部分で特に魅力的な一節を持っています。
この楽章は速いテンポのモルト・ヴィヴァーチェで始まり、その後同じ速さでトリオ部分へと移行します。ニ短調で3/4拍子のこの部分は複合三部形式を取り、スケルツォ主部ではソナタ形式が採用されています。

この楽章の開始部ではアダージョ楽章の冒頭で聞かれるピチカートの音形が速度を増して現れ、第1主題を引き出します。この後に続く第2主題は、ヘ長調で、レントラー風に少しテンポを落として演奏されます。この部分は彼の故郷オーバーエステライヒの風土が色濃く反映されています。

特に、レントラーというダンス音楽の影響が見られ、これはウェーバーのオペラ「魔弾の射手」に登場する農民の踊りに通じる素朴さと力強さを持つメロディに表れています。展開部では最初に第1主題が、次に第2主題が扱われ、再現部では呈示部と同じように進みますが、最後にはニ長調で明るい和音を持つコーダで締めくくられます。

トリオ、つまり中間部は変ロ長調で2/4拍子を採用し、3部形式で構成されています。
ここではホルンが導入部となり、木管楽器が愛らしい旋律を奏でます。
この部分は第1楽章の冒頭フレーズに触発されたもので、軽快に始まり、展開部、再現部を経て、主部の再現へと続きます。

ブルックナーのこの楽章は推進力のある第1主題、和やかな第2主題、そして田園風景を思わせるトリオ部分によって聴く者を惹きつけます。その聴きやすさと世俗的な要素を含んだスケルツォがこの楽章の魅力を一層引き立てています。

名曲4 交響曲第6番 イ長調

アントン・ブルックナーの交響曲第6番は彼の作品群の中でも一際ユニークな存在です。
この作品はブルックナーが交響曲というジャンルにおいて、より洗練されたロマン様式へと移行する過程を示していると言えます。
特にこの交響曲はブルックナーの他の作品と比較して演奏される機会が少ないことで知られていますが、その中には独自の魅力が満ちています。

交響曲第6番はブルックナーの作品の中で「ブルックナー的ではない」と見なされることがあります。
これは彼の他の作品と比較した際に重苦しさが少なく、全体的にリズミカルであるためです。
しかし、この作品には典型的な「ブルックナー開始」や「ブルックナーリズム」が存在し、華やかな金管のファンファーレも多く含まれています。これらの要素はブルックナーの音楽的特徴をしっかりと反映していると言えるでしょう。

作曲過程においてブルックナーは1879年9月24日に第1楽章の作曲を開始し、翌1880年にはこの楽章を完成させました。その後、第2楽章から第4楽章まで順次完成させ、1881年には全楽章の作曲を終えています。

この交響曲はアントン・フォン・エルツェルト=ネーヴィン夫妻に献呈されており、1883年2月11日に初演されましたが初演時には第2楽章と第3楽章のみが演奏されました。

初演の際、ブルックナーは興奮のあまり左右不揃いの靴を履いて会場に現れましたが、この作品は批評家から冷遇され、その後も注目を集めることはありませんでした。しかし、この交響曲第6番はブルックナーの作品群の中で独自の位置を占め、明るく朗らかな人生観や平安を表現している点で、特別な魅力を持っています。

ブルックナーの交響曲第6番は彼の音楽的進化の一環として、また彼の作品群の中で特異な存在として今日でも多くの音楽愛好家によって再評価されています。


第1楽章マエストーソは独特なリズムとメロディで聴く者を魅了します。
曲はヴァイオリンによる印象的なリズムで幕を開け、このリズムが続く中でイ長調でありながら短調の雰囲気も漂わせる第1主題が登場します。この部分は線の太さと半音階的な動きが特徴でエキゾチックな感じを与えます。

続く柔らかな第2主題は大きな音程の飛躍が特徴で、寂しさと憧れが感じられる美しいメロディです。
この主題は対位法的に展開され、金管楽器の華やかな演奏に導かれながら第3主題へと大きく盛り上がります。第3主題の到来はブルックナー特有の金管楽器の音の動きによって強調されます。

展開部では呈示部の終わり近くの音の動きが引き継がれ、第1主題が逆転したような形で現れます。
やがて第1主題が元の形で力強く演奏され、金管のファンファーレを伴いながら再現部へと進みます。ここでは第1主題、第2主題、第3主題が再度演奏された後にコーダへと移り、管楽器による第1主題の静かな演奏から始まりの中、徐々に盛り上がりを見せて最終的には華やかに楽章を締めくくります。

この楽章はブルックナーが見せるリズミカルでありながらも深い感情を込めた作曲の妙技が光る部分であり、聴く者をその壮大な音楽の世界へと誘います。


第2楽章「アダージョ、極めて荘重に」は緩徐楽章で荘厳でありながら哀愁を帯びている楽章です。
へ長調、4/4拍子のこの楽章はソナタ形式で構成され、ブルックナーの交響曲の中でも際立った美しさを誇ります。

この楽章の開始はゆったりとした弦楽器の響きの上でオーボエが切なくも美しい旋律を奏でた後、木管楽器とホルンが弱音のティンパニの上で魅力的な旋律を展開します。

第1主題はヴァイオリンが紡ぎ出し、オーボエがその嘆きのフレーズを加えることで深い悲しみと宗教的な厳かさを表現しています。第2主題はヴァイオリンとチェロが対位法的に演奏することで幸福感溢れる明るいホ長調の世界を描き出します。
このメロディは様々な楽器に受け継がれ、テンポがラルゴに変わることでさらに感動を深めます。
一方、第3主題は葬送行進曲風に進み、緩やかなテンポで進行し、一層の哀愁を帯びます。

展開部ではホルンが第1主題を呼び戻し、木管楽器が活躍する短いセクションの後、再現部へと移ります。再現部では呈示部よりも更に立体的で色彩的な演奏がなされますが、第3主題はラルゴにはならず、そのまま進行します。

コーダでは第2主題の動機から始まり、最終的に第1主題がゆったりと再現されます。
低音部では持続する低音が続き、ヴィオラの半音動きが目立ちます。
最後は弦楽器だけで静かに終結し、この楽章独自の荘厳さと深い感動を静かに締めくくります。
ブルックナーのこの楽章は、彼の作曲技術の高さと、音楽を通じた深い感情表現の能力を見事に示しています。


第3楽章はスケルツォ、イ短調の3/4拍子による三部形式で構成されています。
この楽章ではブルックナーが他のスケルツォ楽章とは異なるアプローチを取り入れており、その特徴は独自の幻想的な雰囲気と落ち着いた色彩にあります。
通常のスケルツォが持つ推進力あるリズムや主題の躍動を敢えて抑え、代わりに比較的穏やかな動機の組み合わせで楽章を進行させることで軽快さと明るさを演出しています。

楽章の冒頭部分ではブルックナー休止が効果的に用いられ、これが聴き手の注意を引き寄せ、低弦がホ音を切れ味良く奏でる一方でヴァイオリンや管弦楽器が異なるメロディーを織り交ぜながらブルックナー独特の音楽世界を形成しています。

中心部では魅力的なメロディーが展開され、イ長調で幕を閉じる第1部からトリオ部分ではハ長調で穏やかに開始し、ホルンと木管楽器がブルックナー自身の交響曲第5番の主題を変イ長調で奏でることにより調性の美しい変化を見せています。

トリオ部分は特に注目に値し、弦楽器のピチカートと森に木霊するようなホルンの響きが独特な雰囲気を作り出しています。
また、木管楽器が突如として交響曲第5番の主題を引用する場面はブルックナーの茶目っ気ある一面を垣間見ることができます。
このような短い動機の見え隠れは楽章全体にわたって緊張感と解放感を巧みに操るブルックナーの技術を示しています。

最終的に第3部で第1部の内容が再現され、楽章はハ長調で終結します。
この再現は楽章全体の統一感を高め、ブルックナーの音楽的意図を明確に伝える重要な役割を果たしており、リズムとテンポの変化、独特なメロディーの扱い、そして調性の変化を通じてブルックナーはその音楽的才能を存分に発揮し、聴く者に深い印象を残します。
交響曲第6番第3楽章はブルックナーの作品群の中でも存在感を放ち、クラシック音楽の愛好家にとっては見逃せない楽章です。

第4楽章は、イ短調で書かれた2/2拍子のソナタ形式です。
この楽章はブルックナーが愛したベートーヴェンの影響を色濃く受けており、先行する楽章の主題を回想するという手法が見られます。

序奏ではヴァイオリンが不安定さを演出しながら次第に緊張感と音量を増していき、ホルンがイ短調で第1主題を力強く提示します。この瞬間からブルックナー特有の荒々しさが感じられます。

第2主題はセカンド・ヴァイオリンによる幸福感あふれる旋律で第1楽章のリズムとの関連性が垣間見えます。興味深いことにこの部分にはワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』からの引用が短く挿入されており、ブルックナーの音楽的影響源を示唆しています。

第3主題は管楽器群によるコラール風の旋律とオーボエ、クラリネットのリズミカルな動機で構成され、展開部ではこれらの主題が対位法的に扱われます。

再現部では金管楽器がより輝かしく響き、ヴァイオリンの細やかな動きが全体に活気を与えます。
コーダでは金管楽器が第1主題を堂々と奏で、トロンボーンが第1楽章の主題を回想することで楽章は力強く終結します。

この楽章を通じてブルックナーの作曲技法や音楽的影響が明らかになります。
彼の音楽は力強い金管楽器の響き、対位法の巧みな使用、そして複雑なリズムによって独自の魅力を放っています。ブルックナーが表現した音楽的世界には深い感動と豊かな表現力が満ちており、聴く者を圧倒します。

Bruckner: 6. Sinfonie ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Christoph Eschenbach

名曲5 交響曲第7番 ホ長調

交響曲第7番ホ長調はブルックナーの3大交響曲の一つで、その壮大なスケールと繊細な情感が見事に融合した作品です。
この曲はブルックナーが60歳を迎えた成熟期の作品であり、彼の生涯で最も成功した作品の一つとして広く認知されています。また、この美しい旋律は多くの人々に愛され、ブルックナーの入門作としても適しています。

1881年に作曲が始まり、約2年後の1883年に完成したこの作品は1884年12月30日にアルトゥール・ニキシュ指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって初演され、ブルックナーにとって初の大成功を収めました。

この交響曲は非常に豊かな楽器編成で構成されています。
全4楽章からなり、ソナタ形式の第1楽章、ロンド形式の第2楽章アダージョ、スケルツォの第3楽章、そして最終楽章が続きます。特に注目すべきは第2楽章で使用されるワーグナーチューバで、リヒャルト・ワーグナーへの敬意を表しています。

ブルックナーがワーグナーの訃報を受けた際、彼は第2楽章のコーダをワーグナーへの追悼音楽として捧げました。この深い感情の表現は、交響曲第7番が多くの聴衆に愛される理由の一つです。

この交響曲はブルックナーの音楽的特徴を集約した作品であり、その複雑な構造と対位法の技巧は演奏会やコンサートで頻繁に取り上げられます。指揮者や演奏家にとっては自らの技術と音楽性を示す機会となることもあります。

世界中のオーケストラがこの曲をレパートリーに加えており、それぞれの演奏は異なる解釈を反映しています。音楽は主観的な体験であるため、聴き手は多様な演奏から自分にとって最も心に響くものを見つけることができるでしょう。ブルックナーの交響曲第7番はその壮大なスケールと深遠な音楽性を通じて、聴く者に多様な感情を喚起し続けています。


第1楽章アレグロ・モデラートはその開始から聴き手を惹きつける独特の魅力を持っています。
ホ長調、2/2拍子のこの楽章はソナタ形式を採用し、3つの主題が織りなす複雑な構造を持っており、特にホルンとチェロによって奏でられる第1主題は、ブルックナーの作品中でも特に美しいメロディの一つとして知られています。
この主題は夢の中での啓示によって生まれたとされ、音楽史上のエピソードとしても興味深いものです。

ブルックナーがこの楽章で展開する音楽的アイデアは深い感情の表現とロマンティックな雰囲気に満ちています。第1主題の提示から始まり、抒情的な第2主題、そして軽妙な第3主題へと移行する過程は聴き手を音楽の旅へと誘います。これらの主題は巧みな転調と和声進行を通じて展開され、次第に高まる興奮とクライマックスへと導かれます。

演奏においてはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のようなアンサンブルによる清涼感あふれる弦の響きがこの楽章の美しさを一層引き立てます。

弦楽器のトレモロが生み出す音色は生演奏で体験するとさらに感動的です。
指揮者によるテンポの取り方も演奏の印象を大きく左右する要素の一つであり、ブルックナーの音楽を深く理解したアプローチが求められます。

再現部では提示部で紹介された主題が新たな形で現れ、多彩なクライマックスを築き上げます。
音楽は最終的にティンパニの効果的な使用とともに第1主題に基づく壮大なコーダへと進み、圧倒的なフィナーレを迎えます。この楽章全体を通じてブルックナーは自らの内面から湧き出る豊かな感情を音楽に昇華させ、聴き手に深い感銘を与える作品を創り上げています。

第2楽章は聴く者を深い感動の渦に巻き込む作品です。
この楽章は嬰ハ短調で始まり、その構成は緻密に計画された5部形式を採用しており、ブルックナーが前作である交響曲第6番で見せた柔らかく美しい音楽性をさらに深化させ、聴く者に強烈な印象を残す作品に仕上がっています。

楽章の開始部分はワーグナー・テューバを用いた荘厳なコラールで、ブルックナーがリヒャルト・ワーグナーへの敬愛の念を音楽に込めたことが感じられます。この楽器の特性を活かした深遠な響きはまるで教会での演奏を思わせ、聴く者を厳かな雰囲気へと誘います。また、この楽章では『テ・デウム』の終楽章から引用された主題が登場し、ブルックナーの宗教音楽との深い関連性を示しています。

第2主題では情感豊かな弦楽器の旋律がベートーヴェンの交響曲第9番を彷彿とさせるような美しさで展開されます。この部分は楽章全体の中で一際明るい光を放ち、聴く者の心に安らぎをもたらします。

楽章が進むにつれて音楽はさらに力強さを増し、金管楽器の輝かしい響きがクライマックスを迎えます。この高揚感あふれる展開はブルックナーの和声技法の巧みさを如実に示しており、聴く者を圧倒します。そして、最後は静かに、しかし感動的に終わりを迎えます。
この終結部ではブルックナーが魂の安らぎを求めるかのような静寂に満ちた音楽が奏でられ、深い感銘を与えます。

ブルックナーのこの交響曲第7番第2楽章はその厳かさと、時には輝かしい響きで聴く者を時と場所を超えた旅へと誘います。音楽の中に込められた深い感情と作曲家の音楽に対する無限の愛がこの楽章を通じて伝わってきます。

Bruckner: Symphony No. 7 Karajan's final concert 1989 ブルックナー: 交響曲第7番 カラヤン 生涯最後の演奏会 ウィーンライブ 1989

名曲6 交響曲第8番 ハ短調

アントン・ブルックナーの交響曲第8番は彼の作品の中でも特に壮大なスケールを誇る作品であり、後期ロマン派音楽の中でも重要な位置を占めています。

1884年から1887年にかけて作曲されたこの交響曲はブルックナーが「芸術の父」と敬愛する指揮者ヘルマン・レヴィに捧げられましたが、初稿は演奏されることなく終わりました。レヴィからの酷評を受け、ブルックナーは大幅な改訂に着手し、1890年には第2稿が完成しました。この稿では第1楽章の終わり方が変更され、スケルツォのトリオ部分が全く新しい曲に置き換えられるなど、多くの部分が短縮されました。

この改訂版の初演は1892年12月18日にハンス・リヒター指揮、ウィーン・フィルハーモニーによって行われ、大成功を収めました。ブルックナーは初演の指揮者に対してフィナーレのカットやテンポの自由な変更を指示するなど、作品の理解と演奏への柔軟な対応を求めました。
これはブルックナー自身が自作の価値を認識していたこと、そして時代が進むにつれてその価値がより広く認められることを予感していたことを示しています。

第2稿の成功後、改訂版が出版され、ブルックナーの他の作品と同様に他人の手も加わっていますが、ブルックナー自身による初演前のカットが反映された形で出版されました。この交響曲の原典版はハース版が1939年に、ノヴァーク版第2稿が1955年に出版され、長い間忘れ去られていた第1稿も1973年にロンドンで演奏され、1977年にノヴァーク版第1稿として出版されました。

ブルックナーの交響曲第8番はその創作過程から初演、そして出版に至るまでの経緯が彼の音楽に対する情熱、改訂へのこだわり、そして後の世代への作品の普遍性を信じる姿勢を物語っています。この作品はブルックナーの芸術的遺産の中でも特に感動的で深い感銘を与えるものとして、今日でも多くの音楽愛好家に愛され続けています。

第1楽章Allegro moderatoは特に深い感情と複雑な構造を持つ部分です。
この楽章はブルックナーがリヒャルト・ワーグナーの死という個人的な喪失を経験した後に書かれ、その影響は楽章全体に渦巻いています。ブルックナーはこの楽章で「死」という普遍的なテーマに深く傾倒し、その恐怖や不安、そして受容について探求しています。

楽章の開始は弦楽器のトレモロと低弦による重苦しい第1主題で、まるで人生の不確かさを音楽で表しているかのようです。この主題は楽章全体を通じて重要な役割を果たし、ブルックナーの内面的な葛藤を象徴しています。一方、第2主題はト長調でより叙情的で希望に満ちた雰囲気を持ち、人生の美しさや一時的な安らぎを表現しているようです。しかし、この希望もまた転調を繰り返し、不安定さを示唆しています。

第3主題は弦楽器のピッツィカートによる伴奏と管楽器の旋律でさらに複雑な感情の層を加えます。
この主題の後に続く壮麗な全合奏は一時的な解放感を与えるものの、主調のハ短調の要素が少なく、全体として調性的に不安定な印象を与えます。

展開部では第1主題と第2主題が模倣され、反転されることでブルックナーが内面的な葛藤と向き合う様子が描かれます。再現部では第1主題が変形され、第2主題と第3主題が型にはまって再現されることで避けられない運命との対峙が示されます。

ブルックナー自身が「死の予告」と説明した金管楽器群によるクライマックスは、この楽章の中でも特に印象的な瞬間であり、人生の終わりに立ち向かう覚悟を感じさせます。そして、pppのコーダが「あきらめ」として表現されることでブルックナーは最終的な受容と平和への道を示唆しています。

この楽章はブルックナーが時代を超越した音楽的表現を通じて、死という普遍的なテーマに深く迫った作品と言えるでしょう。その複雑さと感情の深さは今日に至るまで多くの聴衆に強い印象を与え続けています。


第2楽章「Scherzo. Allegro moderato」はその構造と内容で聴き手を魅了します。
この楽章は独特のA-B-Aの複合三部形式を採用しており、それぞれのセクションがさらに三部形式を成しています。この緻密な構造はブルックナーの音楽的思考の深さを示しています。

スケルツォ主部(A)では「ドイツの野人(ミヒェル)」という架空のキャラクターをブルックナーが描き出し、その鈍重さを音楽的に表現しています。主要主題はホルンによって導入され、弦楽器がこれを引き継ぎ、ブルックナーが音楽で語りたい物語の始まりを告げるかのようです。

曲は途中でティンパニーによる断続的な響きを伴いながら主題をさらに展開し、最終的には冒頭のホルンに戻って第3部へと進みます。この繰り返しはブルックナーの音楽が持つ循環的な性質を強調しています。

トリオ(B)部分では、調性が変イ長調に変わり、演奏標語に「Langsam」(ゆっくりと)が指定されており、ここで「野人(ミヒェル)が田舎を夢見る」様子を描いています。このセクションは他のブルックナーの交響曲のトリオと比較しても長大で、特に中間部の低弦による旋律は「野人の祈り」と解釈されています。
1887年の初稿から1890年の第2稿への改訂過程ではトリオが大幅に書き換えられ、ハープが追加されたことでより癒しの効果を持つ部分に変わりました。

この楽章の改定はブルックナーが聴衆の精神的な負担を軽減しようとした結果、第1楽章から続く緊張感を和らげ、聴き手に一息つく機会を作りました。ハープの追加は音楽の厳しさを和らげ、聴き手を癒すための意図的な選択であったと言えるでしょう。ブルックナーのこの深い配慮は彼の音楽が持つ人間性と共感性を強く感じさせます。

トリオの後、スケルツォ主部(A)が再び現れ、楽章を締めくくります。
この再現はブルックナーが作り出した音楽的な世界への再入門とも言え、聴き手に深い印象を残します。ブルックナーの交響曲第8番第2楽章はその構造的な巧みさと情感的な深さで音楽史において重要な位置を占めています。


第3楽章”Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend”はその壮大な構造と感動的な旋律で知られています。この楽章はA – B – A – B – A – コーダの5部形式を採用しており、それぞれのセクションが独自の情感と音楽的な要素を持ち合わせています。

楽章の冒頭では第1ヴァイオリンがシューベルトの「さすらい人」の主題を引用する形でA部分の主要旋律を紹介します。この旋律はイ長調から始まり、その後、変ト長調に転じることで音楽に一層の深みを与えています。ハープの加わる第25小節からは音楽はさらに華やかさを増します。

B部分では、チェロとワーグナーチューバが主題を担当し、音楽は新たな次元へと進みます。
特に、金管楽器のファンファーレ風の旋律はこの部分のクライマックスを飾ります。

第1主題の再現部では劇的な転調が見られ、ハープを伴うA2の要素は省略され、音楽は短縮された形で進行します。B部分の再現では主題がほぼ同じ形で再現され、ピツィカートによる舞曲風の経過句が、楽章の静かな終わりへと導きます。

クライマックス部分ではシンバルとトライアングル、ハープのアルペッジョがこの楽章の壮大な頂点を飾ります。特にシンバルの使用は初稿と第2稿で異なり、初稿ではより宗教的な意図を感じさせるものとなっています。

コーダでは楽章の主調である変ニ長調に戻り、穏やかながらも小さな盛り上がりを見せながら、楽章は静かに終わります。

この楽章はブルックナーの深い宗教的信念と彼の音楽に対する純粋な情熱が見事に結実した作品です。各部分の緻密な構造と感動的な旋律が織り成すこの楽章は聴く者に深い感銘を与えます。


4楽章Finale. Feierlich, nicht schnellはその複雑さと壮大さで知られ、聴く者を圧倒します。
この楽章はソナタ形式を取り、弦楽器、金管楽器、木管楽器が絡み合う中、様々な主題が展開されます。

第1主題は金管楽器によるコラールとトランペットのファンファーレで始まり、ブルックナーが「オルミュッツにおける皇帝陛下とツァーリの会見」を描いたとされる壮大な音楽です。
弦楽器はコサックの進軍を、金管楽器は軍楽隊を、そしてトランペットは皇帝陛下とツァールの会見を象徴しています。

第2主題は弦楽器を中心に変イ長調で展開され、交響曲第7番からのモチーフも取り入れられます。
第3主題は変ホ短調の行進曲風で特に「nicht gebunden」という指示があり、音をつながずに演奏されます。

展開部では第1主題と第3主題が交互に現れ、徐々に悲劇性を増していきます。
この部分は金管楽器の強奏によるクライマックスを迎え、最終的には再現部へと移行します。

再現部ではコラールとファンファーレが再び現れ、曲全体の勢いが増します。
第2主題と第3主題も再現され、特にハース版では交響曲第2番からの引用が見られるなど、異なる印象を与えます。

最後のコーダでは全4楽章の主題が重なり合い、ハ長調で終結します。
この部分は「闇に対する光の完全な勝利」と称賛され、ブルックナーの音楽が持つ深い意味を象徴しています。しかし演奏によってはこの終結が異なる印象を与えることがあり、独自の解釈を加える指揮者もいます。これはブルックナーの音楽が持つ多様性と解釈の幅を示しており、聴く者によって異なる感動を呼び起こします。

ブルックナーの交響曲第8番第4楽章はその複雑さ、深さ、そして美しさで今なお多くの聴衆を魅了し続けています。

Bruckner: Symphony No.8 Karajan/ Wiener Philharmoniker/ Live1979 ブルックナー: 交響曲第8番 カラヤン ウィーンフィル

名曲7 交響曲第9番 ニ短調

交響曲第7番はアントン・ブルックナーが57歳の時に着手し、1883年9月5日に完成させた作品です。
この曲はブルックナーの交響曲の中でも特に人気が高く、彼の作曲家としての地位を不動のものにしました。
ブルックナーはこの作品を通して自身が経験したウィーンでの困難を乗り越え、神への感謝を表現しています。

特に注目されるのは第2楽章に含まれるリヒャルト・ワーグナーへの葬送音楽です。
ブルックナーはワーグナーを深く尊敬しており、その訃報を受け取った際には深い悲しみに暮れました。その悲しみを音楽に込め、4本のワーグナーチューバを用いた壮大な葬送音楽をこの楽章に追加しました。この部分はブルックナーの葬儀の際にも演奏され、彼への敬意を表すものとなりました。

初演は1884年12月30日にライプツィヒでアルトゥール・ニキシュ指揮のゲヴァントハウス管弦楽団によって行われ大成功を収めました。この成功によりブルックナーは交響曲作曲家としての確固たる地位を築き、その後の演奏会でも高い評価を受け続けました。

ブルックナーの交響曲第7番は彼の三大交響曲の中で最初に完成した作品であり、第8番、第9番とともに彼の代表曲とされています。
この作品はブルックナー自身による大きな改訂がほとんど行われておらず、後世の指揮者による改訂も最小限に留まっています。この「原典版」は、ハース版やノヴァーク版などの基となっており、ブルックナーの意図を最も忠実に伝える形で演奏されています。

この交響曲はブルックナーの音楽的な成熟を示す作品であり、彼の独特の和声進行、複雑な対位法、そして深い感情表現が見事に融合しています。ブルックナーが音楽を通じて神への感謝と尊敬の念を表現したこの作品はブルックナーの名曲の一つとなっています。


第1楽章アレグロ・モデラートはホ長調の鮮やかな色彩と2/2拍子の堂々たるリズムが特徴です。
この楽章はソナタ形式に従い三つの主題が見事に組み合わされることにより聴く者を魅了します。
特に冒頭に登場するホルンとチェロによる第1主題はその美しさで知られており、ブルックナーの交響曲の中でも際立った存在感を放っています。この主題は夢の中での啓示によって生まれたとされ、無限の広がりを感じさせる独特の響きを持っています。

この楽章ではワーグナーの影響も見受けられ、特に和声進行においてロマンティックな雰囲気が強調されています。第2主題と第3主題はそれぞれがロ短調で提示され、和声の変化に富んだ展開を見せ、聴き手を楽章のクライマックスへと導きます。

展開部では主題が変化しながら再び登場し、深い感情を呼び起こします。
再現部では提示部とは異なるアプローチで高まる緊張感がクライマックスを築き上げます。

この楽章の演奏においてはオーケストラが弦セクションやホルンの豊かな響きを最大限に活かし、ドイツの自然を思わせる深い音色を生み出しすことができます。その演奏は明るくもありながら、ロマンティックな情緒をたっぷりと含んでおり、ブルックナーの音楽の本質を捉えています。

コーダでは第1主題が再び力強く現れ、壮大なフィナーレへと導かれます。
この部分ではティンパニの使用が効果的で、音楽の勝利を象徴するかのような輝かしい終わりを迎えます。ブルックナーの交響曲第7番第1楽章はその緻密な構造と情感豊かなメロディで、聴き手に深い感動を与える楽章です。


第2楽章はその厳粛さと静謐な美しさで知られています。
この楽章は嬰ハ短調で始まり、その構造はA1-B1-A2-B2-A3の5部形式によって展開され、ブルックナーが瞑想的な音楽世界を構築しながら聴き手を深い感動へと誘います。

楽章の開始部ではワーグナーテューバがコラール風の旋律を奏で、これが第1主題として提示されます。この選択はブルックナーのリヒャルト・ワーグナーへの敬愛を示すものであり、その音楽的な影響を感じさせます。特にこの楽器の使用はワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」における「黄昏の動機」との関連を暗示しているかのようです。

第2主題は嬰へ長調で弦楽器によって紹介され、ベートーヴェンの交響曲第9番の第3楽章を思わせる旋律が展開されます。この部分ではブルックナーが過去の偉大な作曲家たちへの敬意を表していることが感じられます。

楽章のクライマックスでは第1主題と第2主題がさらに発展し、音楽は高揚していきます。
ここでブルックナー独自の和声技法が光り、感情の密度が増していく様子が描かれます。
そして、この部分でのシンバルや他の打楽器の使用は楽章全体の盛り上がりをさらに強調しています。

最終的に楽章は嬰ハ長調で静かに終わりを迎えます。
この静謐な終結は、魂の安らぎへの願いや諦念の境地を暗示しているかのように思えます。
ブルックナーの交響曲第7番の第2楽章はその深い感動と静けさによって聴き手に瞑想的な体験を与えてくれます。この楽章は目を閉じてじっくりと聴き入りたくなるような心に響く音楽です。


第3楽章はイ短調で3/4拍子に設定されたスケルツォとトリオから構成されています。
この楽章は弦楽器とトランペットによる力強い主題で幕を開け、ブルックナー特有の野性味あふれる快活さで聴き手を魅了します。特にスケルツォ部分では前楽章の緊張感を解き放つような舞曲風のノリの良さが際立ち、ブルックナーの独特なリズム感がこの楽章を一層引き立てています。

この楽章の進行は硬直することなく転調を繰り返し、4小節ごとに新たな展開を見せることで聴き手を次々と新しい音楽的風景へと誘います。最初の終止はハ短調で迎えられ、中間部ではブルックナーの手法に則り、初動と主題が巧みに転回されます。そして、主調のドミナントを経て再現部へと進み、最終的にはイ短調で締めくくられます。

トリオ部分はヘ長調で展開される田園的な主題が特徴で、ここでは穏やかな転調と転回が繰り返されながらも平易な終結を迎えます。この対比はスケルツォの野性的で勢いのある部分とバランスを取りながら第4楽章への序曲的役割を果たしています。

全体を通してこの楽章はブルックナーの独特な音楽世界を象徴するような作品であり、舞曲風のリズムと野性的な雰囲気、そして進行の巧みさが見事に融合しています。聴き手はこの楽章によってブルックナーの音楽的特色と第4楽章への期待感を一層高めることができます。


第4楽章「フィナーレ 運動的に、あまり速くなく」はホ長調、2/2拍子で展開される自由なソナタ形式の楽章です。

この楽章はその独特な構成により初めは周囲からの批判を受けました。
ソナタ形式の再現部では提示部で紹介された3つの主題が逆転して再現されますが、これは古典的なソナタ形式の規範からは外れ、理解し難い混乱を招く構成とされました。しかし、この楽章は伝統的な構成要素を深く理解し、それらを自由に再構成することで即興演奏のように各主題を動的に扱い、独自の形式を成立させています。

第1主題は楽章を通じて快活に進行します。
一方で第2主題は変イ長調でコラール風に一転し、第3主題はイ短調で第1主題を発展させた激しい旋律であり、各主題は転調を織り交ぜながら提示部を構築します。展開部では第1主題と第2主題が様々な転調を経ながら進行し、再現部では第3主題がロ短調で登場しますがその後第2主題、第1主題へと展開され、オルガンの即興演奏のように盛り上がっていきます。

ブルックナーにとってオルガン演奏は即興の芸術であり、この楽章はその精神を反映しています。
最終的には第1楽章の主題が再び現れ、巨大なコーダによって歓喜のうちに楽章を締めくくります。

この楽章は静かな始まりから徐々にテンポを上げ、音楽の浮き沈みを経て感動的なクライマックスへと導かれます。各主題の扱いや構成の自由さは聴き手に予想外の感動を呼び覚まします。

ブルックナー/交響曲第7番ホ長調◇小澤征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

名曲8 弦楽五重奏曲 ヘ長調

アントン・ブルックナーの「弦楽五重奏曲 ヘ長調」は彼の作曲家としてのキャリアの中で特に自信に満ちた時期に創作されました。
交響楽団での経験から抽出した豊かな音色がこの室内楽作品においても見事に表現されています。
ブルックナーがこれまで主に交響曲の作曲に注力してきた中でこの五重奏曲は彼の室内楽における稀有な成功例と言えます。

特に驚くべきはブルックナーが学生時代に弦楽四重奏を手掛けた以来、長らく室内楽から遠ざかっていたにも関わらず、この作品で見せる音楽的な密度の高さです。
小規模な編成にもかかわらずブルックナー特有の音楽的深みと魅力が十分に発揮されています。

この五重奏曲を聴くことでブルックナーの音楽に対する一般的な「近づき難さ」を感じている人々も、彼の純粋でナイーヴな感性に触れ、新たな共感を覚えるかもしれません。実際、初めてこの作品を耳にした際、ブルックナーらしさを強く感じると同時にその繊細な響きにも関わらず、満足感を得ることができました。

この作品の中でも特に注目すべきは第3楽章アダージョです。
ブルックナーの交響曲の緩徐楽章と肩を並べる美しさを持ち、静謐で透明感あふれる旋律は聴く者に深い感動を与えます。まるで大自然の壮大な景色と人間の喜びが融合したかのようなこの楽章の音楽は、弦楽合奏としても度々演奏され、多くの人々から愛されています。

総じてこの「弦楽五重奏曲 ヘ長調」はブルックナーの室内楽作品の中でも際立った存在であり、彼の音楽的才能の幅広さを示す証と言えるでしょう。

Anton Bruckner ‐ Streichquintett / String quintet F-dur WAB112. (complete)

名曲9 テ・デウム ハ長調

アントン・ブルックナーの「テ・デウム」ハ長調は彼の信仰深さを象徴する作品として、1884年にその完成を見ました。ブルックナーが恩師ワーグナーへの追悼の念を込めた「交響曲第7番」に続く、彼の宗教音楽の中でも特に力強く、荘厳な響きを持つ作品です。

この作品はローマ・カトリック教会の朝課で歌われる「テ・デウム」のテキストに基づいており、「天主よ、われら御身を讃え」という賛歌の精神を音楽で表現しています。

1886年1月にオーケストラと合唱による初演が行われ、ブルックナー生存中に29回もの演奏が行われるほどの人気を博しました。特に注目すべきはブルックナーが「交響曲第7番」の第2楽章で用いた、ワーグナーへの哀悼の思いを象徴する音型が「テ・デウム」のフィナーレの主題にも転用されていることです。このことからもブルックナーの作品間での深い関連性や、彼の音楽に込められた情感の豊かさが伺えます。

「テ・デウム」は5つの部分から構成され、それぞれが連続して演奏されます。
ブルックナーの音楽の中でもこの作品は彼の宗教的な信念と音楽的な才能が見事に融合した傑作と言えるでしょう。ブルックナーが60歳を迎えた頃に初めて広く認められた作品であり「交響曲第7番」と共に、彼の名声を不動のものとしました。

ブルックナー自身によるオリジナルの管弦楽版の初演は彼の弟子たちによる編曲や校訂を経てウィーンで行われました。この作品には初版とノヴァーク版が存在し、いくつかの違いがあるものの、どちらもブルックナーの深い信仰心と音楽的なビジョンが反映された後期ロマン派の宗教音楽の中でも特に重要な位置を占める作品として評価されています。

ブルックナー 「テ・デウム」 ヨッフム Bruckner : Te Deum

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