グスタフ・マーラー
グスタフ・マーラー(1860年7月7日 – 1911年5月18日)はオーストリアのボヘミア地方カリシュテェでドイツ語を話すアシュケナージ系ユダヤ人の家庭に生まれました。
19世紀のオーストリア・ドイツの伝統ロマン派と20世紀初頭のモダニズムの架け橋的な存在でもありました。
「私は3つの意味で無国籍である。オーストリアのボヘミア出身であり、ドイツ人の中のオーストリア人であり、世界中のユダヤ人である」
マーラーが書いたとされる有名な言葉ですが、その境遇はどこに行っても安住の地がなく、疎外感を感じてしまっていたのでしょう。
そういった孤独感、疎外感はより大きな世界を見る感覚を養うのに十分なきっかけとなります。
マーラーの人生は苦難に満ちていました。
両親の不仲、国籍、ユダヤ人に対する差別的感覚、最愛の娘の死、愛する妻の裏切りなど、マーラーの心の形を変えるのには十分な内容です。
このような悲劇的な出来事は、マーラーの作品にも大きな影響を与えたことは想像に難くありません。
愛と憎しみ、自然の美しさや生きる喜び、そして死の恐怖や苦しみ、そういった人の心(自身の人生の中で感じた深い心情)や世界の変化と調和、秩序などの壮大なスケール感を哲学的な主題を持って楽曲の構成をしています。
『交響曲は世界のようであらねばならない。それは全てを包含せねばならない。』
マーラーの曲は長編大作のように長く大掛かりなので、知らない人や聞いたことがない人が聞くと、なんだか分かりにくく、とっつきにくいイメージになるかもしれません。
しかし、マーラーの曲の中には、人生の中の理想と現実との矛盾の中で起こる困難は、人生の経験の一部であり、神への最後の忠誠においてのみ究極の救済を見出すことができるという詩的な考え方が織り込まれているためか、聞けば聞くほどその音楽性の深さを感じるようになります。
マーラーの曲には物語があり、随所に「歌(歌のようなメロディ)」があります。
壮大でドラマチック。曲の全体を通して喜怒哀楽や物語が見えてくるようです。
悲劇的な人生の中でも、マーラーは希望や喜びを表現するような作品も多数作曲しているのです。
「交響曲はマーラー」と言うクラシックのベテランは多く、長く壮大な交響曲の随所にあるメロディアスでドラマティックな旋律、飽きさせず引き込んでいく展開は見事です。
マーラーの解説動画(マーラーと日本人!大作曲家マーラーの生涯と音楽的魅力を紹介!交響曲第1番「巨人」、「さすらう若人の歌」簡単解説付き!)
マーラーの名曲・代表曲
交響曲 | ・交響曲第1番ニ長調『巨人』 ・交響曲第2番ハ短調 『復活』 ・交響曲第3番ニ短調 ・交響曲第4番ト長調 ・交響曲第5番嬰ハ短調 ・交響曲第6番イ短調『悲劇的』 ・交響曲第7番ホ短調 ・交響曲第8番変ホ長調 ・交響曲イ短調『大地の歌』 ・交響曲第9番ニ長調 ・交響曲第10番嬰ヘ長調 |
声楽曲 | ・カンタータ『嘆きの歌』 ・歌曲集『若き日の歌』 全3集14曲 ・歌曲集『さすらう若者の歌』 全4曲 ・歌曲集『少年の魔法の角笛』 全12曲 ・リュッケルトの詩による5つの歌 全5曲 ・歌曲集『亡き子をしのぶ歌』 全5曲 |
歌曲 | ・『さすらう若者の歌』 全4曲 ・『亡き子をしのぶ歌』 全5曲 ・『少年の魔法の角笛』 全12曲 ・『リュッケルト歌曲集』 全5曲 ・『若き日の歌』 全3集1 |
その他 | ・ピアノ四重奏 4曲 |
ここでご紹介するマーラーの名曲10選はおこがましくも管理人の独断と偏見によりセレクトしています。ご理解の上、お楽しみください。
※順不同
マーラーの名曲・代表曲10選
マーラーの名曲1 交響曲第1番「巨人」 第4楽章
マーラーの交響曲第1番「巨人」の第4楽章は、勝利に向かって盛り上がる力強いフィナーレです。
金管楽器と打楽器のファンファーレで始まり、重厚で行進曲のようなテーマへと移行していきます。
この楽章では様々なテンポの変化やダイナミックなシフト、そしてトランペット独奏のための顕著なソロが特徴です。
この楽章は、マーラーの特徴である激しい半音階と不協和音を取り入れながら、力強いクライマックスへと発展していき、最後は長調の和音による勝利の宣言で終わります。
この楽章はマーラーの進歩的で大胆なスタイルの代表例であり、この交響曲の理想的な締めくくりとなっています。
マーラーの名曲2 交響曲第2番ハ短調 『復活』
マーラーの交響曲第2番ハ短調「復活」は、ロマン派の時代を象徴する重要な交響曲のひとつです。
この交響曲は1888年から1894年にかけて作曲され、演奏時間は約1時間40分とこの時代の交響曲の中では最も長いものの一つで、5つの楽章からなり、3つのパートに分かれています。
この作品は、キリスト教の信仰とゲルマン神話の両方からインスピレーションを得ており、最初の2つの楽章は主要なテーマの導入部、最後の3つの楽章は交響曲のクライマックスになっています。
交響曲の第1楽章は葬送行進曲で始まり、徐々に盛り上がり、声楽、金管楽器、ティンパニによる力強い合唱で勝利のクライマックスを迎えます。第2、3楽章は軽快でやや楽観的、第4楽章はこの交響曲の暗い陰鬱な基調に戻ります。
第5楽章は、合唱団が復活の賛美歌を歌い、勝利的な結末を迎えます。
この交響曲は、ロマン派の時代の中で最も愛され、演奏されている曲の一つであり、マーラーの天才ぶりを示すものです。
マーラーの名曲3 交響曲第5番嬰ハ短調
交響曲第5番嬰ハ短調はマーラーの代表作の一つであり、ロマン派交響曲のレパートリーの頂点に立つ作品とされています。
1901年から1902年にかけて作曲され、ホルン4本、トロンボーン3本、トランペット4本、ティンパニ3本、そして弦楽器が揃った大オーケストラのための楽曲です。
この交響曲は5つの楽章からなり、中間楽章の葬送行進曲がスケルツォに先行するという珍しい構成になっています。
第1楽章は劇的で力強い序奏で始まり、第2楽章の葬送行進曲は半音階を多用し、悲しみと絶望感が際立ちます。
第3楽章はスケルツォが活発でエネルギッシュで、明るく陽気なメロディが特徴的です。
第4楽章は、ゆったりとした叙情的なアダージェットで、この交響曲の最も有名な楽章の一つです。
フィナーレはロンドで、勝利に満ちた英雄的な主題が特徴的です。
この作品は、力強い感動と、ユニークで斬新な構成で、広く賞賛されています。
マーラーの名曲4 交響曲第9番ニ長調
マーラーの交響曲第9番ニ長調は、1911年に亡くなる前に書いた最後の交響曲です。
作曲者が絶望と恐怖の感情を音楽に注ぎ込んだ、美しさと感情の激しさを併せ持つ作品として評価が高い曲です。
この交響曲は4つの楽章に分かれており、ゆっくりとした序奏から力強い第1楽章へと続き、スケルツォ、瞑想的な緩徐楽章、そしてフィナーレで作品は勝利のうちに幕を閉じます。
この作品はマーラーの最も偉大な業績のひとつとされ、広く演奏・録音されています。
マーラーの名曲5 交響曲第3番ニ短調
マーラーの交響曲第3番ニ短調は1896年に作曲され、彼の交響曲の中で最も長い作品です。
彼の作品の中でも最も野心的で技術的に難しい作品の一つであり、運命の交響曲と評されることもあります。この交響曲は6つの楽章からなり、全部で約90分にも及びます。
冒頭の楽章、「Kräftig. Entschieden”(「力強い、決定的な」)は、力強く行動を促すものです。
第2楽章「Tempo di Menuetto」は、優美なメヌエットです。
第3楽章「Comodo(Scherzando)」は軽快なスケルツォ、
第4楽章「Sehr langsam」は美しくも哀愁漂う緩徐楽章です。
第5楽章「Lustig im Tempo und keck im Ausdruck」(「テンポは陽気に、表現は大胆に」)は、エネルギーと喜びに満ちたロンドです。最後は力強いフィナーレ「Gemessen, ohne zu schleppen」で、交響曲は勝利のうちに幕を閉じます。
マーラーの名曲6 交響曲第6番《悲劇的》
マーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、グスタフ・マーラーが1903年と1904年に作曲した4楽章からなる交響曲で、マーラーの作品の中でも最も力強く感情的に激しい作品であり、彼の最高傑作の一つとされています。
この交響曲は、大編成のオーケストラと様々な音楽スタイルやテクスチャーを特徴としています。
第1楽章は、暗く劇的な葬送行進曲。第2楽章は、民謡風のメロディーを持つ叙情的なスケルツォ。第3楽章は、ゆったりとしたテンポで哀愁を帯びたアダージョ。フィナーレは、勢いのある勝利の行進曲。
この交響曲は、ハンマーに似たモチーフを使用していることで知られており、このモチーフは作品の特定の部分を区切るために使用され、しばしば運命の象徴とみなされます。
また、この交響曲は感情的な力を持ち、モチーフやライトモチーフを使用して緊張感や悲劇感を生み出すことでも知られています。
マーラーの名曲7 交響曲第8番《千人の交響曲》
マーラーの交響曲第8番は、「千人の交響曲」と呼ばれ、1906年に作曲された巨大な合唱交響曲です。
巨大なオーケストラ、2つの混声合唱団、8人の声楽ソリストのために採譜されたこの交響曲は、コンサートホールのために書かれた作品の中でも最大級のものです。
ラテン語の賛美歌「来たれ、創造主たる聖霊よ」と「ゲーテの『ファウスト』第2部“山峡”からの終幕の場」に基づく設定で、この作品は2つの部分に分かれており、第1部は交響的な前奏曲、第2部は重厚な合唱の舞台となっています。
この交響曲は劇的で力強いクライマックスと壮大で荘厳な響きが有名で、マーラーの作品の中でも特に人気が高く、交響曲のレパートリーとして定番となっていますが、その大きな力と壮大なスケールから「千人の交響曲」というニックネームが付けられました。
マーラーの名曲8 交響曲「大地の歌」
マーラーの交響曲第6番「大地の歌」は、グスタフ・マーラーが1908年に作曲した6楽章からなる交響曲です。この曲は、中国の李白らによる唐詩に基づいた “詩集 “からインスピレーションを得ています。
マーラーの作品の中で最も複雑な作品の一つで、複数の珍しい音楽形式を駆使しており、この作品では独奏楽器から大編成のアンサンブルまで、オーケストラの色彩とテクスチャーが多様に用いられています。
音楽は非常に表現豊かで、マーラーは生と死、そして意味を求める人間の闘いを鮮やかに音楽で表現しています。この交響曲はマーラーの最も深遠な作品のひとつとされ、その感情的なパワーと複雑な音楽的アイデアを伝える能力が高く評価されています。
マーラーの名曲9 交響曲第7番ホ短調
交響曲第7番ホ短調はマーラーの最も壮大で野心的な作品の一つであり、1904年から1905年にかけて作曲されたものです。
ハープ2台、フルート4本、オーボエ4本、クラリネット4本、ファゴット4本、ホルン4本、トランペット4本、トロンボーン3本、チューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、バスドラム、弦楽器を含む大オーケストラのためにスコア化されています。
この交響曲は5つの楽章に分かれており、総演奏時間は約80分です。
第1楽章「ラングサム(アレグロ)ーアレグロ・リゾルート、マ・ノン・トロッポ」は、ゆっくりとした前奏曲で瞑想的な序奏から徐々に激しさを増します。
第2楽章「夜の歌1ーアレグロ・モデラート」は、静謐で夢のような雰囲気で始まります。
第3楽章「スケルツォ・シャッテンハフト」はやや力強く、夢の高まりのような感じです。
第4楽章「夜の歌2」ーアンダンテ・アモローソ」は深まる夜、静かな時を過ごし心地よい雰囲気です。
第5楽章「ロンド フィナーレ アレグロ オルディナーリオ」壮大で歓喜に満ちた喜びの賛歌で終わります。
この交響曲はマーラーの最も有名な作品の一つであり、曲全体のトーンは強烈で暗い感じがしますが、緊張感にあふれ、劇的な山あり谷ありで闘争と解決も感じられます。
この曲は、世界の一流オーケストラや指揮者たちによって演奏・録音されています。
マーラーの名曲10 交響曲第10番嬰ヘ長調
マーラーの交響曲第10番嬰ヘ長調は、マーラーの最も有名な作品の一つです。
1910年に作曲を開始したこの曲は、彼のライフワークの集大成ともいえる作品でしたが、1911年、マーラーの死去により完成することができませんでした。
この曲は5つの楽章に分かれており、独特の和声表現と様々な感情の深まりが特徴的で、平和で穏やかなものから劇的で激動的なものまで力強く激しい作品であります。
その全体的な構成は、マーラーの人生に対する墓碑銘とみなされることも多く、特に最終楽章が重要な意味を持っています。この楽章では、運命的な短調のフレーズが終始繰り返されますが、これは作曲者自身の生と死を表していると考えられています。
とりあえず1曲1曲がものすごく長く、壮大なスケール感があるので優雅な時間を楽しむのに向いています。
クラシックをゆったり、ずっと聞いていたい人にはマーラーはおススメです。
クラシックのビギナー向きではありませんが、何度も聞いているうちにマーラーの良さ、非常に優れた曲だということを理解できるようになると思います。
「交響曲はマーラー」
マーラーの人生を表現したとも言える名曲達をご堪能下さい。
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